彼らは皆戦場にいた

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 カノンは燭台を傾けて鉄格子をくぐらせ、牢の中のアレグロに差し出した。 「これを持って、そうしたら寒くない。人型の方が話しやすいでしょう。竜だとどうしても、声も大きくなるから」  カノンの優しさに、アレグロは泣いてしまいそうだった。雌雄も経歴もその役目だって、何一つこの好きな男に言えなかった日々が苦しかったことをアレグロは思い出す。  そして、彼は音も立てずに人になった。政務官の長いスカートから覗く、普段は絶対に見えないその腿はあざだらけで、脚は細いながらも明らかに男の足だった。  両手で燭台を持ち、火で暖をとりながら、アレグロは告白した。真実を洗いざらい話すことがどれだけ勇気のいることかと察したカノンは、ぺたんと座る彼に合わせてしゃがみ込んだ。 「…私は、ほんの子供だった時にノクターン閣下に落札されました。自分から身売りに出たのです。家が没落し親も亡くなり、弟たちがいたから、仕方なく」  カノンは丸い水色の頭を撫でた。アレグロの声はまったく女そのもので、彼の過ごした潜伏の時間がどれだけ長かったのかを物語っていて、カノンの胸が痛くなる。  そして、アレグロは言った。     
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