彼らは皆戦場にいた

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「私は進言したのです。アリア陛下に王位を退くことを。そして、ギャスパー様を連れて国外にお逃げになることを。私だって、このドラコルシアがノクターン閣下の手に渡ることは嫌だった。しかしそれよりも、ギャスパー様が殺されて、アリア陛下が悲しむことの方が嫌だった…!あの子はようやく、ようやく愛を知ったばっかりなのに!」  悲痛な声で叫ぶアレグロの肩をカノンが格子越しに抱きしめた時、ギャスパーは、アレグロに感じていた漠然とした怒りがなくなっていくことを感じた。彼がスパイだなんて全く気がつかなくて、彼の行動のせいでアリアは追い詰められたと思っていたのに、真実は全く違うようだったからだ。アレグロの言葉には、不器用にも恋人同士の二人の幸せを願う気持ちが溢れていた。 「アレグロ、あなたはきっとギャスパー様がこの国にいる限り、ノクターンの刃から逃れられないと思ったのですね。そして主君の心労も絶えないと」 「そっ…そうです」 「あなたがもう何百年も何千年も、ノクターンの手の内に閉じ込められていたのと同様に、ギャスパー様までもが囚われてアリア陛下が悲しむことを恐れたのですね」  カノンの言葉に、抱きしめられたアレグロは震えて目を見開き、水色の瞳からボロボロと涙をこぼした。丸い瞳は溶けて消えてしまうのではないかというほどに潤みきって、彼は必死に、立ち尽くすギャスパーを見上げた。 「ごめんなさい。きっと陛下がどこかに消えてしまわれたのなら、それは私のせいなのです」 「…なぜ」     
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