彼らは皆戦場にいた

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 ギャスパーは言った。アレグロは、必死に嗚咽を抑えてこう答えた。 「私が逃げるよう進言した時、陛下はまっすぐ外を見てらっしゃった。そして彼は私を抱きしめて言ったのです。ありがとう、と。私はわけがわからなかった。陛下が何事かを決意されていることはわかったのに、そのお心まではわからなかった。そのあと、陛下はそこにいる彼に、秘密裏に私を引き渡しました。私を地下の、誰もいない座敷牢に繋ぐように、と衛兵に言ったのです」  この地下牢は、かつてアリアが千年幽閉されていたところだ。だから今となってはここには誰も寄り付かないし、囚人は別の施設に入れられる。若い衛兵は随分戸惑ったそうだが、初の勅令に緊張しながらも任務を果たした。  アリアはきつく兵に言ったそうだ。  決して誰にも、アレグロがここに繋がれていることを言ってはいけないと。そして今夜見たことは誰にも言わないようにと、彼に強く命じた。いずれ時が来たらアレグロのことを釈放し、彼を外に逃がしてやるようにと言い残したのだ。  なのに、明け方にカノンの執務室に、この衛兵が青い顔をしてやってくる。衛兵は、カノンがずっとアレグロを探していたと知っていて、我慢ができなくなったのだ。     
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