彼らは皆戦場にいた

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 昨夜、変だったアリアの様子を見抜いていたのに止められなかった自分の甘さと無能さに、ギャスパーは反吐が出そうだった。 「主君をお救いしなくては。もう主君が向かわれてから何時間も経っている」 「カノン宰相閣下、ノクターン閣下が主君を殺すことはないと思います。彼は、その…生きている陛下を苦しめることを、目的としているから」  アレグロはそう言ったが、ノクターンの思想などよくは知らないギャスパーからしたらそんな言葉を信じられるはずもない。二頭の竜らは早口で話を続けた。 「アレグロ、お前はどう思います。王城の兵らで元老院に向かいますか?」 「いえ、それは危険です。元老院の竜と全面戦争になります。しかも、あの建物は複雑で隠し扉や仕掛けが多い。外敵の罠に備えているのですよ」 「私の父は」 「メッゾ老は、ノクターン閣下に吸わされ続けた薬のせいで伏せっておられます。…それに、王城の竜が迷い込んだとなれば彼らは容赦しない。きっとアリア陛下のことは招き入れたでしょうけど、それでも我々に門戸を開けるかどうか」 「待ってください」  袋小路に迷い込もうとしている竜らの言葉を遮ったのは、ギャスパーだった。  立ったままの彼は、カノンとアレグロを見下ろす。すると彼らも立ち上がり、普段の柔和な表情とかけ離れた顔をしたギャスパーを見た。     
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