彼らは皆戦場にいた

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 牢の天井から水が滴る。久しぶりに生き物の体温で暖められ、氷が溶けているのだ。  薄暗い空間で黙ってギャスパーの言葉を聞いていたアレグロは、ある覚悟のもと自らの懐を探った。ギャスパーは折れないと、彼は知っていた。 「これ…これは、元老院の地図です。罠の場所も明記してあります。私がメモを取ったものだから、もしかしたら不備もあるかもしれないけれど、万一のために五百年の間で作ったものです」  擦れてインクの薄くなっている紙をアレグロは格子の中から差し出した。ギャスパーがハッとしてアレグロを見る。彼の唇は薄く震えていた。  彼は続ける。 「ノクターン閣下は日光に弱い。彼は、アリア陛下の鱗を食べたその日から怪我が治り病にかからない、若いままの体を手に入れましたが、ノクターン閣下に現れた副作用は日光で火傷する肌だった。だから必ず、彼はこの地下室にいる。アリア陛下もきっとそこにいるでしょう。いいですか、地下につながる階段は、ここのみです。他は全て罠だ」  アレグロは丁寧に、ギャスパーにもたせた地図を指差して説明した。その指先は震え、頬には汗がにじんでいたが、アレグロは緊張に苛まれながらも真剣だった。     
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