彼らは皆戦場にいた

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 その地図はとにかく緻密で複雑で、しかしアレグロの指示は明確だった。ギャスパーは頭を回す。脳みそに一刻も早く正確に、地図を立体構造として捉え叩き込むのだ。 「…地下室の鍵をくすねてきました。これも、持って行って」  アレグロは胸元からペンダントを外す。金色の重い鍵を渡され、ギャスパーは紐の付いたそれをアレグロ同様自らの首にかけ服の下に潜らせた。 「元老院の廊下は広いけれど、竜人族が皆大きな竜の姿を取るとひしめき合ってしまって身動きが取れません。だから、これは希望的観測ですが、彼らは人のままでしょう。武器や、毒矢はあるでしょうが…。あなたは剣をお持ちですよね」 「ああ」  アレグロはスイッチを完全に切り替えたのだろう。淡々と、ギャスパーにアドバイスを与える。ギャスパーの気持ちも覚悟も、片思いに燃える彼の心は気がついたはずなのだ。 「地図を持って行きますか」 「いや」  ギャスパーは何度もなんども、ノクターンとアリアの居るという元老院地下室に向かう最短ルートと二、三の別のルートを脳内に思い描く。  軍にいた頃、ギャスパーは何度もこういった訓練を受けたことがある。  数分で地図を暗記し、即座に道を組み立てる。危険も行動も全てシミュレーションし、生き延びるために全力を尽くせるようになる、そんな過酷な訓練を。     
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