彼らは皆戦場にいた

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 カノンはギャスパーの言う言葉の意味がわからず、そう返す。それはアレグロも同じようで、ただ彼らはギャスパーの顔を見た。  ギャスパーは言った。 「水路ですよ。この城の雨水ろ過装置から伸びる水路は、ここ、元老院の庭にも届いているでしょう。…壁の上からから金の屋根を目印にして、俺は凍った水路の上を走って元老院に向かいます」  冬の間大蛇のような氷を纏うこの城は、ギャスパーがドラコルシアを目指していたあの日のアレグロの説明通りに、屋根の部分に雨水をためるところがある。その水は、この城の外に中に複雑に流れ落ちる、ろ過機能つきの水路に流されて清められ、人の姿で暮らすことの多い竜人族の庶民らの生活水になっているのだ。  ドラコルシア王都ニーアラには、高い高い壁状の水路が縦横無尽に張り巡らされ、その上を水が流れて、各地区ごとに水をもたらしている。冬の間の今は凍っているが、春から秋にかけてこの町は涼やかな水の音に満たされるのである。 「なるほど!その手が。竜の背に乗って元老院に行くと、目立ってしまってきっと必ず彼らに気がつかれますし」 「真正面から行っても通してくれはしないでしょうし…しかし氷は不安定ですよ。割れやすいし滑るし、」  アレグロは納得したが、カノンはまだ心配そうに言った。     
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