彼らは皆戦場にいた

43/44
前へ
/228ページ
次へ
「何を言っているんですか。俺がそんなヘマをするわけもない。…時間がない。カノンさん、この王城の中の、元老院の方につながっている水路の壁まで俺を連れて行ってください」  ギャスパーはそう言った。カノンはようやく全ての迷いを振り切ったようで、緊張ぎみに頷いて黒髪を揺らす。  そして、二人が囚われのアレグロに背を向けた時だった。ギャスパーは唐突にピタッと歩みを止め、青竜にこう言い残した。 「俺はあなたを、アレグロさんをこちらの味方だと信じて、あの地図のことも他の情報も信じます。だから安心してください」 「ギャスパー様」 「絶対にアリアを連れ戻す」  振り向きもしないギャスパーの背を、燭台を握りしめたままアレグロは見つめて、彼のために跪き右手を胸に当てる。  この地下牢がこんなにも暗く、冷たい場所だとは、アレグロは知らなかった。アリアはここに千年繋がれて、時には特異の体を調べられ、時には孤独の夜に震え、時には、どうなるかわからない自らの未来に絶望したのだろう。  しかしアリアは生きた。生きて、耐えて、待って待ち続けて、今この瞬間だって戦っている。守るために、未来を切り拓くために戦っているのだ。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加