覚悟の行く末

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 ノクターンは、おぞましい白竜アリアを殺そうという大義名分を掲げ千年メッゾと争ったのだが、彼は一度たりとも、アリアの命を奪う具体的な行動を起こしていない。少なくとも、アリアが王となったこの五百年間はそうだった。  王位や権力だけが欲しいなら、潜り込ませたアレグロにアリアを狙わせることもできたのに、彼はわざわざ、今のアリアの何倍も強いギャスパーを狙った。その意図はまだあやふやにしか予想できていないが、アリアは、自分が殺されない、という可能性に賭けることにした。無論、用を済ませて生きて王城に帰るつもりである。  目の前に座る金色の青年、八千年以上の時を生きた老竜ノクターンはアリアとそっくりの瞳を細めて、アリアに聞いた。 「もうお前も、一五一一歳だろう。煙草は吸うかい?」  真鍮のテーブルに、ノクターンは太いそれをすっと滑らせた。アリアがそれを手に取ると、ツンと強い香りが彼の鼻を突く。 「いりません。…この匂いには覚えがある、お祖父様」  アリアは言って、テーブルにそれを載せた。王位に就く前、地下で、何度も同じ匂いを嗅いだ。煙草でなく香だったが、明らかに同じ成分だろう。  それは、メントールの香りの眠り薬だ。アリアはそれを嗅がされ眠らされ、よく鱗や体の構造を竜人達に調べられていたものだから、久しぶりの嫌な記憶に眉根を顰めた。     
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