覚悟の行く末

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 その台詞に、アリアはビクッと体を震わせた。アリアの脳はよく知っている。慣れ親しんだ思考回路によってはじき出される懇願だからだ。この懇願は全くアリアの性分の核心をついていて、ノクターンはさすがというかなんというか、アリアの血の繋がった竜なだけある。アリアの根幹に未だくすぶり続ける、自己犠牲で低姿勢の、勇気があるように見えて逃げを求めるその懇願に、ノクターンは気がついていた。 「…さすがお祖父様。僕はここに、命を捨てる覚悟で来ました」  沈黙を挟んでアリアが言うと、ノクターンは笑い出した。  この祖父と自分は声まで似ているらしいと、アリアは気がついて嫌な気持ちになる。地下室を震わせた透明な声は、ギャスパーと笑いあった時に初めて聞いたアリア自身の高い笑い声とよく似ていたのだ。  しかし金竜の声は、アリアによってぴたりと止むことになる。 「とでも、言うと思いましたかっ…!」  腹の底から搾り出したような、そんな声だった。  歯を食いしばって腰を丸め、椅子の上で怒りに震えるアリアこんなの様子を、ノクターンは彼が生まれてから一度も見たことが無い。アリアはぐしゃっと、白く光る手の甲に青筋を立てて煙草を握りつぶす。メントールが香った。眠り薬なのに、頭の冴える匂いだった。 「僕は、死ぬことなんて望みません。もちろん、ギャスパーが死ぬことも絶対に許さない。だいたいあなたが僕のことを殺せないと、僕は誰より知っている」     
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