覚悟の行く末

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 ずっとずっと、不思議だったのだ。無抵抗だったアリアを手にかけようとすればすぐにできたのに、ノクターンがアリアを殺さず、何かしらの形で関わり続けてきたことが。本当に疎ましかったら、殺すか離れるかするものである。白竜に執着しその体を解明しようとし、わざわざアリアの鱗を直接ぬきとりにきたのにアリアを殺さなかったこの金竜ノクターンは、アリアへ好意に似た何かを持っているのではないのかと、アリアは疑った。彼が、息子すらも利用し殺してしまえるような奇異で冷酷な性格をしているのなら尚更、好意に気がつかなくても無理はないとアリアは思ったのだ。  甘すぎる予測だとは思った。しかしこれ以外に、どうにもしっくりくるものがない。  だからアリアは、今夜の機会に城を出た。少なくとも一頭アレグロのように違法に傷つけられ縛られている竜人が存在していることの判明と、世界で一番大切な男の命が狙われた事実があったこの今こそ、アリアはノクターンと対話する時だと思ったのだ。 「お祖父様、」  アリアは更に言葉を紡ごうとした。希望の言葉だ。 「黙れ」  しかし、アリアを襲ったものは凄まじい息苦しさと、熱いほどの痛みだった。 「う…ぐ、う、」  苦し紛れに薄く目を開いたアリアが見たものは、ノクターンの肩から伸びる竜の前足だった。黄金に輝く鱗が目を刺す。アリアは、片腕だけ竜に戻ったノクターンに、首を掴まれて宙に浮いていた。 「私がお前を好きだって?それは勘違いだ。私は自分のことしか好きではない」  祖父の嘲笑がアリアの耳に届いた。 「な、ら、何故っ…僕の、体から鱗を奪った。未知のっ…副作用がで、ると、知りながらっ…本当に自分のことしか好きじゃない生き物は、自分に満足しているはず、だ…他人か、ら、何かを奪おうとはしないっ…!」     
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