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物語を止めないで
誰かのすすり泣く声がしたと思ったのに、ぱちっと目を覚ました時にそれは止んでいた。
ずっとずっと、時間の感覚が失われていくほどにその声を聞いていたはずなのに、ようやく追いついたと思ったら消えていくその声がなぜだかどうしても気になって、男は体を起こした。その時ようやく、男は今まで眠っていたのだと知った。
「…夢?」
ぼんやりと定まらない意識の中、彼の目は部屋を映す。懐かしいようなそうじゃないような、しかし最も多く寝泊まりした簡易ベッドのある軍の部屋ではないことは定かで、広いそこで彼はただポツンと座っていた。
「軍…そうだ、朝礼!」
自分は師団長だ。第一師団の若きトップなのに遅刻したらシャレにならない。彼はそう思って布団から腕を抜いた。しかしその瞬間、彼を襲ったものは凄まじい違和感だった。
腕が光っていた。
陽光に照らされて、ところどころに浮かんだ貝殻のようなものが、まるでダイヤモンドのように虹の光を浮かべていたのだ。
「う、鱗?」
男はようやくその正体に気がついた。こんなにきれいな魚は見たことがないが、これはまさしく鱗である。生白い腕をところどころ、さらに白い硬質な鱗が覆っていた。
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