物語を止めないで

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 そんな非現実的なことは彼をあまり驚かせなかった。それよりも彼が驚いたのは、もっと現実的でわかりやすい、馴染みのある変化だ。 「おい嘘だろ。俺の腕がこんな、こんな細くなってるなんて!」  骨ばったそれは筋肉が剥がれ落ち、まるでもやしである。こんな有様では剣も満足に握れないのではないかと彼が慌てふためいたところ、広い広い部屋のドアが遠慮もなしに開けられた。 「あっ」 「えっ?」  最初の声はベッドに座る男の物で、後の声は、世にも美しい青年のものだった。  透き通るような水色の髪の毛をポニーテールに結んだ青年は、真っ白のズボンを履いているから辛うじて性別がわかった。その顔に妙に懐かしさを感じる男だったが、名前が出てこない。あ、あ、と最初の文字だけ浮かんだ彼がすっきりした顔で名前を叫んだのと、青年が手に持っていてシーツを取り落として叫んだのは、全く同じタイミングだった。 「あっアレグロ!」 「おっ、おっ、起きたああああああああああ!」  キーンと耳をつんざくその声は、王城じゅうに響き渡る。そしてようやく、やせこけてしまった男、ギャスパー・キャロルは、今まで起きたことの全てを思い出したのだった。                    ‥     
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