物語を止めないで

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 時刻は午後二時で、季節は春らしい。しかし、聞き間違いかと思ってしまった暦の年に、ギャスパーは思わず目をむいた。 「へっ、カノンさん今、何年とおっしゃいました!?」 「だから、何度も言うように…あなたはずっと目を覚まさなかったのです、ギャスパー様。五三一年と五ヶ月と二週間と三日、あなたはここで、このベッドで、ずっと眠っていたのですよ!」 「嘘だ…」 「本当です」  いつものように、眠ったまま起きないギャスパーのベッドのシーツを取り替えようとアレグロが彼の私室に入った時、ギャスパーはなんと起き上がっていた。ぼんやりと腕を眺めるその姿はやはり以前の彼よりふたまわりほど小さくなっていたが、その表情から声まで、当たり前だが全くギャスパーそのものだった。  恋人の叫びを聞いて駆けつけたのはカノンだ。髪を伸ばしたアレグロと対照的にすっきりと黒髪を短くしたカノンは相変わらず美形だったが、ギャスパーを一目見た時、彼の顔は大惨事の状況に陥った。涙と鼻水でべとべとになるまで泣きじゃくり、彼は、ギャスパーのベッドのそばで崩れ落ちたのだ。     
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