恋の心臓

物語を止めないで

　ネギと溶き卵の優しい香りが鼻をくすぐる。ギャスパーはもう我慢できそうにない。
「もちろんですよ」
「ああギャスパー様、火傷に気をつけて！」
　アレグロとカノンはそう言って、仕事だってあっただろうにずっとギャスパーのそばにいた。たった一ヶ月と少しほどの時間しか彼らは共に働いていなかったが、城に勤める同僚として、そしてアリアを支えるものとして、時にはそれ以上のつながりがある三人だから、久しぶりの暖かい時間は皆にとって心地よかった。
　アリアの帰還まで残り七日。カノンはアリアのやむを得ない仕事を考慮して、サプライズとしてギャスパーの目覚めを彼に秘密にすると決め、ギャスパーは少しでも骸骨のような体から回復することを心に決めた。
　何年眠っても格好つけは治らなかったらしく、ギャスパーは微笑みの裏で凄まじい努力を重ねることになる。まさか自分が歩行すら困難な状況に陥っているとは予想しておらず、彼のリハビリ生活は、思った以上に根性のいるものとなった。
　　　　　　　　　　　　　　　　‥
「見ろ！国王陛下の一団がご帰還されるぞ！」
「どこどこどこ？あっ、雲が割れる」
「お城の地上のお庭に到着されるはずよ。門が開かれているから急がなきゃ！」