恋の心臓、呼吸の果てまで

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恋の心臓、呼吸の果てまで

『おかしい』 『はい?』 『なあに?』  それは、ドラコルシア国王アリアとヒューマリア出身の男の史上初の結婚記念式典を終えて半月ほど経った、短い真夏のある海岸で交わされた会話だった。 『何がですか』 『何もおかしくないじゃない』 『何もかもが、だ』  カノンとアレグロは怪訝そうな顔をしたが、ギャスパーの口調は至って真剣である。 『ビーチなのに着込んでるカノンさんもおかしいし、アレグロさんがずっと上司にべったりなのもおかしいし、俺たちのハネムーンにあなたたちがいるのもおかしい。いや、そんなことは些細なことです。もっとおかしいことがあります。陛下は、旅行中のこの半月、なぜ何もしてこない!?』  ワナワナと震える水着姿のギャスパーに、ああー…と彼らは白けた視線を送った。  季節は八月、夏真っ盛りである。二週間しか夏のない北国ドラコルシアからギャスパーとアリアはようやく休暇を取り王城を抜け出して、たまりたまっているバカンス日数を消化しに、ちょうどハネムーンも兼ねてこの離島に来た。なぜ南の島を北のドラコルシアが所有しているのかは謎だったが、かつて夏に焦がれたある王が無人島を開拓したのだという。恐ろしい行動力だ。     
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