恋の心臓、呼吸の果てまで

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 アリアは言った。その、昔に増して綺麗な顔にはもう何の不安もなくて、ギャスパーは安心した。不安がる彼は可愛いが、ただ幸せなのがやはり一番だ。 「ふふ、何だかね、吹っ切れたよ。ギャスパーは不思議だ。僕が何度考えても答えが出なくて不安になるようなことでも、あなたはすぐに取り払ってくれる」 「アリア、それって」 「一つになりたい」  真剣な目をしたアリアは、顔を真っ赤にしてそう言った。唐突のお願いにギャスパーは固まってしまう。大胆なのに恥ずかしがりで、男気溢れるのに生娘のように恥じらう恋人のその魅力は、きっと何年たってもギャスパーの心を揺さぶり続けるのだ。 「…俺も、アリアと一つになりたいよ」  お互いの指を絡めて手を組んだ。金の指輪が夏のじっとりとした空気の中で触れ合って、その冷たさに鳥肌がたった。こんな飾りひとつで心がつながるとは思えないが、確かな幸せと勇気をもたらしてくれる結婚指輪はお互いの宝物だった。 「んっ、ん」  アリアが懸命にキスに応えた。嵐のようなキスだった。じゅぷ、じゅる、と水音がして、ギャスパーがアリアの口内を弄るたびに、アリアも少しだけ薄い舌を絡めた。愛おしい人間の唾液をごくりと飲み込んだ。今や同じ鱗を内包する二人だけれど、もっともっと互いの存在が混ざり合っていくようで嬉しくて、言い知れない快感があった。     
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