恋の心臓、呼吸の果てまで

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 ギャスパーは孤児だ。親の顔も知らず、兄弟の有無もわからず、その上、五百年眠った末に、見知った人間や生きていたかもしれない肉親の確実に死んでしまったこの時代に生きているのだ。 「アリアが居るだけでも信じられないくらいに幸せだったのに、こんな可能性があるなんて。俺はなんてラッキーなんだろう」  未だギャスパーが感動しているものだから、アリアは胸が締め付けられてしまって仕方がない。彼はずっと、独りの人生を生きたのだ。笑って剣を振るって任務をこなして、ただ生きるためだったとしても、生きてアリアのところに来てくれた。  ギャスパーはアリアを強いと言った。それでもやっぱりアリアは、自分より恋人の方が何倍も強いと思ってしまうのだ。  常夏の熱帯夜の夜、アリアの頭は冴えていたが、体とその心は煮えたぎったままだった。だから彼は言った。願いも込めて、恋人に提案した。 「ねえギャスパー」 「なに?」  湿気の多い空気を吸う。アリアは微笑みを浮かべながら、彼におねだりをしてみせた。 「赤ちゃんが欲しいな。あなたとの。だから、できるまでしてみない?」     
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