198人が本棚に入れています
本棚に追加
長い長い挨拶を一通り終えたらしい黒竜は、灰色の目を地に向けた。その視線にさらされた大臣の一人が短い悲鳴を上げたが、彼を助けられるものなどいなかった。
『は、カノン殿。アレグロ殿。それは私の部下、第一師団団長ギャスパー・キャロルに他なりません。彼は、我らヒューマリア国軍自慢の男です。きっと貴国ドラコルシアでも役立ちましょう』
返事ができたのは、軍部のトップ、エルマー・キングスレーのみである。
勝手なことを言ってハードルを上げてくれるな、と思ったギャスパーだが、もちろんそんなことを言えるわけもない。だからいつも通り微笑むに止め、カノンの勧め通りその背にまたがった。黒の鱗は作り物のように艶めくのに呼吸に合わせて上下しており、竜も生きているのか、とギャスパーはまた驚いた。彼はギャスパーが乗りやすいよう腹まで地面につけてくれた、気遣いのできる竜であった。
そうして黒竜カノンはギャスパーを運び、青竜アレグロはギャスパーの荷物を牙に引っ掛け、今に至るというわけだ。
「宰相閣下はとってもイケメンでお優しいのに、人類は怖がってしまうのですね…」
「お前は私を好きだからって、色眼鏡を通して見過ぎです。おっと!」
カノンは飛んできた鳥を避けた。ギャスパーの耳元に大量の羽音が通り過ぎる。ギャスパーは落ちないように必死だ。
最初のコメントを投稿しよう!