ドラコルシアとヒューマリア

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 そんな竜らののんびりとした会話を聞きつつ、ギャスパーは平静を保とうと短い呼吸を繰り返す。ギャスパーの乗る黒竜カノンの下にはおもちゃのようになった人間の国が広がっていたのだが、ギャスパーにそれを眺める勇気はなかった。 「閣下、此度は兵を連れてきてないんですよ。きちんと気をつけて飛行してください!」 「すみません、アレグロ…いやしかし、人類で最も強いと謳われるギャスパー様がいるとなると心強い旅路だ。私は運動音痴ですしね」  カノンはギャスパーを持ち上げるつもりで言ったのだろうが、運動音痴、という言葉にギャスパーはどうしても引っかかる。明らかに戦闘力が高そうな見た目をしている竜なのに、そんな訳があるかと思ったのだ。  ギャスパーは確かに、凶暴な海獣や毒を撒き散らすトロールを倒してしまったことはあるのだが、空中戦はしたことがない。海には落ちても泳げるが、空から落ちたら飛べはしないのだ。結局か弱い肉体しか持たない人類など、確実に死ぬ。 「冗談よしてください…」  ボソッとつぶやかれたギャスパーのその言葉は凄まじい風音でかき消され、カノンの耳には届かないと踏んでいたが、カノンは聞き取ってしまったようで慌てて言った。 「もっ、もちろん、何かありましたら我々が全力でギャスパー様をお護りしますよ!我らが主君、ドラコルシア国王陛下の婿殿ですから」     
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