ドラコルシアとヒューマリア

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 焦ったのはそこではない、と思ったギャスパーだが、尾ひれがいくつも引っ付いた噂を否定する間もなく、カノンは言葉を続けた。地の底から響くような低音はゴッと吹き荒れる風にさらわれることなくギャスパーに届く。 「そうそう、主君の話をしましょうか。主君…国王陛下は見かけによらずお優しい方です。まだお若いのにも関わらず王座を引き継がれ、様々苦労されておいでですが…いや、その、この話はまだ早いですね。ともかく主君は私の誇りだ。宰相である私の意見もよく聞いてくださる、臣下思いの方ですよ」 「主君は本当に良い方ですよ、それは私も同意します。ただ、真っ白の見た目で誤解を受けてしまうのです」  カノンとアレグロの言葉は彼らが主君と呼んで慕うドラコルシア国王への敬愛に溢れており、ドラコルシア国王の人柄…竜柄は穏やかなのだろうと想像させる。しかしやはり白色というのは嫌われるらしく、彼らもその色には思うところがあるようだ。正直、人類であるギャスパーにとって竜は白かろうが黒かろうがどうでもいいのだが。  どんなに婚約者の気性が優しかろうと聖人のような性格をしていようと、身体の規格から違うので結婚生活に苦労はつきものに違いない。その上、カノンは千五百歳越えのドラコルシア国王のことを若いと言った。すでにギャスパーには、信じられないことが多すぎる。ぶるっとギャスパーは身震いした。     
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