ドラコルシアとヒューマリア

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「ええ、本当に美しい。それに力強い城だ。きっと国王陛下も、同じように力強く空を駆ける竜人族なのでしょう」  世辞を言う余裕も出てきた。きっと大丈夫だと、ギャスパーは自分に言い聞かせる。ギャスパーは深呼吸をした。根の深い雪の匂いというものを、彼は初めて知った。  しかし、ギャスパーの言葉に、カノンとアレグロは互いに目配せをし出す。何か間違ったことを言ったろうか、と、ギャスパーが密かに焦り始めたところで、口を開いたのはアレグロだった。 「陛下は、その…。ずっと人間の姿をとったまま、空を飛んだことがないのです」  え、と、ギャスパーが驚いてアレグロの方を見た。竜の表情は非常に分かりにくいが、アレグロの水色の瞳に罪悪感らしいものが浮かんでいるのが見えて、ギャスパーは黙り込む。  次に言葉を続けたのはカノンだ。 「主君は、長年争いの渦中におられました。そして、狭く暗い地下に囚われた。忌々しい、白竜を殺すべきと訴えた竜たちによってね。そのせいで、主君は…陛下は、お力のほとんどを失ってしまったのですよ」  いまいちピンとこないギャスパーに、カノンは説明を重ねた。     
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