ドラコルシアとヒューマリア

27/34
前へ
/228ページ
次へ
 竜の姿で卵から孵った現国王は、息を吐くだけで山を燃やし、翼を動かすだけで津波を呼ぶ、いわば伝承に聞く原始竜そっくりの力を有していた。しかし当たり前に、多くの竜人族はそれを恐れ忌避するようになる。 「主君はお優しい方だ。だから何年も、何百年も力を抑えるうち、ついに体のコントロールを取れなくなってしまわれたのです」  カノンの口調は悲しげだった。アレグロ同様、彼も何かを悔やんでいる。もしかしたらそれが、現国王を白竜だという理由だけで恐れてしまった自らたちへの自責なのかもしれないと、勘のいいギャスパーは気がついた。  そういえば、婚約者である王の二つ名に、翼を持たない竜人王というものがあったなとギャスパーは思い出す。キングスレーが教えてくれたものだ。 「さ、王城を目指しますよ。ギャスパー様、腿に力を込めてしっかりとツノを持ってくださいね!」  沈黙を破りわざと明るい口調で黒竜カノンはそう言い、青竜アレグロが先導した。ギャスパーのための風よけになってくれているのだ。  人間が馬を使い、その足を動かして目指すと半月はかかると言われるこの距離を、竜らはほんの四時間と少しで飛んでしまった。眼前にはドラコルシア、麗しの氷の都ニーアラの青屋根と白壁が迫り、ギャスパーはゴクリと唾を飲む。  馴染みない国に、異形の婚約者。しかもドラコルシアの内情は、なかなかに複雑なままらしい。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

198人が本棚に入れています
本棚に追加