ドラコルシアとヒューマリア

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 しかし、任務は任務だ。ギャスパーにはどうこうする手段はない。うまくやるさ、と、彼はもう一度自分に言い聞かせた。              ‥  白の高い壁に四方を囲まれた、王城の中腹にある中庭のようなところに、カノンら竜は足をつけた。雪をかぶった芝が震える。針葉樹に積もった雪がどさっと落ちた。はたから見ても非常にアンバランスなこの城が崩れてしまわないかと、ギャスパーは密かに心配したか、どういう設計なのか城はただ震えただけで二頭の竜らの着陸に耐える。そしてためらいなくギャスパーはカノンの艶めく黒の鱗に足をかけ、背から飛び降りた。  酩酊感が彼を襲う。サクッと踏んだ雪の感触は祖国では味わえないものであり、ギャスパーは内が凍ったその感触に慣れず目を閉じる。  船酔いに近い感覚だった。頭が痛くて吐き気がして、情けないことに醜態を晒してしまっているが、ギャスパーはしばらく目を開けられない。  しかし段々と、遠のいていた音が蘇えってくる。どこからかアレグロを呼ぶ声があったようで、青い竜は返事をした。ほんの少し水の流れる音がしたのは、ほとんど凍った王城の水路の音だろうか。パキパキと軽やかに響いた音は知っていた。冬の湖面の氷にヒビの入る音と似ている。きっと振動で、水路の氷が割れたのだろう。     
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