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ギャスパーと同じくらい背のある長身の男は長い黒髪を持ち、ふわりとした銀のシャツに細身のスラックスを着ていた。薄着だ。ウエストの位置が高い。そして、祖国ではまず見ることのないほどに綺麗な顔立ちをしている。まさか、とギャスパーは心当たりがあるものの、向こうが名乗らないと信じられない。
ギャスパーの質問に、美形の男は不思議そうな顔をして、ギャスパーを見た。
そして彼はニッコリと笑い、二歩近づいて腰を折る。優美なその仕草に長い髪がさらっと揺れたが、胸に当てられたその手の甲が真っ黒の鱗で覆われていると気づき、ギャスパーは予感を確信に変えた。
「私はドラコルシア国宰相の、カノンでございます」
やっぱりか、とギャスパーは思って、ふうっと息を吐いて警戒態勢を解いた。密かに確認していた剣の柄からも手を離し、深呼吸して、カノンに向き合った。
「失礼。あなた方がその名前の通り、人に似た姿にもなれることを失念しておりました」
ギャスパーは丁寧に頭をさげる。彼の左肩には狼の頭が載っていた。このコートの毛皮は北の野を駆けるこれまた巨大な狼から取られたものだ。
「あ、あの、私はアレグロです。これ、ギャスパー様のお荷物で…」
ギャスパーの背後に、青い髪の毛をボブヘアにした美女が立っていた。裾の長い真っ白のワンピースを着た彼女は、抜刀しかけたギャスパーに警戒していたようで、その声は震えていた。
しかし、ギャスパーにとって衝撃だったことは、アレグロの性別だ。
「えっ、あの、女性だったんですか!?」
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