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カノンはそう言い、王の前に跪いて顔をうかがった。
自らの発言がきっかけで呼び寄せてしまった人間と対面することを、もはや恐怖しているかのような王の顔には一切の獰猛さも強暴性も見えない。それなのに、その頬に点在する鱗が白いというだけで、竜人族であるカノンの心臓はひるんでしまうのだから、本能とは難儀なものである。
このカノンは少年を恐れながらも、一番、少年個人を見てくれる竜であった。しかし他のものは、たとえ少年の味方であったとしても、少年の中に流れる誇り高き王族の血にしか興味を抱いていないと、彼は柔らかなその心できちんとわかっていた。王が政治をしようとしまいとどうでもよく、ただ若い組織である元老院の手に政権が渡ることを嫌がり、何としてもアリアの在位を望む竜が多いことにも。
「…僕が本当の王になることはきっと、できないのかもしれないね」
王の言葉はごく小さくつぶやかれたものだから、カノンの耳にも入らない。
自らの立場も国の事情もわかっていたからといって、その白い心が耐えられたかどうかは、また別の話である。
‥
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