198人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしギャスパーは、わずか数分後にそんなことを考えていられなくなる。いくら有能な彼とはいえ、人生で初めてで最大の衝撃に備えがあるわけもない。
まさか竜人の少年王に一目惚れしてしまうとは、彼は微塵も思っていなかったのだ。
‥
「失礼いたします、我らが陛下。第一政務官のアレグロでございます。ギャスパー・キャロル様のお支度が整いましたので、お連れいたしました」
全体的に天井が高いこの城の中心部に、一層広く高く開ける場所があり、そこを抜けると巨大なドアが見えた。モザイクタイルで美しい文様が描かれたその扉は一見して他の部屋と違うとわかる。ドアの両脇に、槍を持った衛兵が立っていた。無論彼等も竜人である。
アレグロ曰くこのフロアは政務関連の場所らしく、先ほど着替えをした王族の居住エリアと違って白い制服の男女が目立つ。政務官たちが、両手いっぱいに資料を抱えて走り回っているのだ。しかし彼らもやはり、まだ国民にはお披露目されない予定のギャスパーの存在が気になり、到着時と同様に多くがチラチラとギャスパーを見ていた。
「お入りなさい」
重厚なドアの中からした声はカノンのものだった。ここは国王の執務室である。
最初のコメントを投稿しよう!