初恋

8/28
前へ
/228ページ
次へ
 衛兵は二人がかりで両開きのドアを開いた。まっすぐ先に大きな窓があり、午後の陽光の逆光であまり前の見えなかったギャスパーに、アレグロは手を差し伸べた。その仕草は少々ぎこちなく、彼女がどこか緊張しているとギャスパーは気がつく。 「さ、こちらにどうぞ」  彼女の声が響くその部屋は広く、床には赤い絨毯が敷かれている。  大きな机とそれまた大きな椅子と、その横に控える長身の男がカノンだとはわかるものの、ギャスパーには国王の姿が見つけられない。陽光にようやく慣れた彼はすがめてしまった目をまたきちんと開き、椅子の辺りを見る。  しかし今日この時間、彼は大きな衝撃を受けることになる。ギャスパーにとってこの時が、最後の正気の瞬間だったと言ってもいい。  ハッと息を飲んだ時には、彼はもうその姿の虜だった。  淡雪の肌に、さらに白い真珠色の髪。柔らかく放たれる虹色の光。  彼のもたれる大きな椅子の背よりも座高が低いその少年は、茶の椅子にくっきりと体が浮かび上がって見えたほどに輝いていて、そのかんばせにはゆるく吊った金色の宝石が均等に二つ浮かんでいた。  王の容姿が美しいとは一言も聞いていなかった。  恐ろしいとか、そういった評判ばかりであった。  しかしこんなに壮麗な生き物を、ギャスパーは見たことがない。  組紐のような海獣のひげもエルフの魔法の指輪も、秋の天壇山脈も海に沈む巨大サファイアだって、こんなに魅力的ではない。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

198人が本棚に入れています
本棚に追加