初恋

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 白竜は本来竜人族には存在せず、この色は原始竜の特徴だったという話だ。原始竜は神に近く、自然全てを操る能力を有していたと、アレグロは少しだけ説明してくれた。そして竜人族にとって、原始竜は恐怖の象徴だったとも。その話がふと、呼吸すらもひそめてしまっていたギャスパーの脳裏をよぎる。  きっとこの少年王は、竜人族というより今は亡き原始竜に近いのかもしれない。原始竜は人間の姿を取れなかったというが、祝福された彼にだけ奇跡が舞い降りたのかもしれない。  虚構小説や夢想の類は、今までギャスパーと縁遠いものであった。なのに彼は今、そうでも思わないと少年王の存在感を受け入れられない。  こんな風に、今にも破裂してしまいそうな胸の鼓動を恋と呼ぶのなら、世の中の恋人はどれだけ屈強なのだろうとギャスパーは目元を歪める。体温が上がる。彼以外見えない。心臓は無論、五臓六腑全てが酸素不足を訴えて、よく回る口は一切停止してしまった。  今までどれほど、この心は不感症だったのだろう。ギャスパーの胸に渦巻く様々な思いはほとんどが初体験で、言語化しようとも喉元に渋滞しせき止められてしまっている。彼のことを何も知らないのに、知りたいという強烈な欲求と並列して、どうしようもなく好きだという感情が一番上にせり出した。 「陛下」  アレグロ同様緊張した声のカノンに促されて、創造神の最高傑作に違いない少年はちら、とその両目を斜め上に動かす。彼は不安げにカノンの顔をうかがった。     
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