初恋

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 気を取り直したらしい白竜は言う。透明な声だ、とギャスパーは思った。予想より少し低くてしっかりしていて、小さいけれどけれどよく通る音である。いきなりの話題にギャスパーは少し驚いたが、少年の言葉ににっこりと笑みを浮かべ、ガチガチに緊張している王に答えた。 「恐れ多くも、そう伺っております。陛下が俺にご興味がおありだと知って、なんとも光栄なことだとこの身は震えてしまったほどです」  本当は、ギャスパーはそんなことを言うつもりはなかった。あくまで人間の国とドラコルシアは対等になるように、場合によっては少し強気な態度で出るべきだろうと思っていたのだ。  しかし彼は今や、ただの恋する男である。しかもビギナーだ。祖国のための外交ルートの足がかりとなるという目標はもちろんあるものの、心の底から湧き出る感情がどうしても前面に出て、いつもの数倍は正直者になってしまった。 「あ、あの、立ってください。膝、痛いでしょう」  ややあって、王はそう言った。彼はギャスパーを気遣ってくれたようだが、このやわらかな床に膝をつくのは全く苦ではない。しかしギャスパーは、今や自分よりも緊張するこの王の言葉に甘えることにし、すっと体幹を使って立ち上がり、狼の毛皮を柔らかく払った。美しく堂々と見える所作をギャスパーはよく知っていたので、もちろんそれらもフル活用している。 「お気づかい痛み入ります。カノン宰相閣下の仰る通り、やはり陛下はお優しい方ですね」     
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