初恋

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 ちゃっかりと一番人に好かれる顔を作ったギャスパーは自然とはにかんだように見える。ほんの少しの仕草にまで無意識に気が回ってしまうあたり、彼の心はこの王に傾き切ってもはや垂直に近い。 「それに、俺は二十二年の生涯であなた様のように麗しい方を見たことがない。失礼でなければ、もう少し近くで拝謁してもよろしいでしょうか」  麗しい、と王を評したギャスパーの言葉に、驚愕の表情でアイコンタクトをしたのはカノンとアレグロだ。白竜は珍しいが、竜人族にとって白色の鱗は、美醜の感覚より前に別の感情が立つ。  現世離れした王の両頬は、肌に紛れて真珠貝色の鱗が一部覆っている。彼は紛れもなく人外である。それもまた美しくて、ギャスパーは虹色の光を放つ鱗に触れたくてたまらない。しかし彼は思いとどまる。先ほどこの国に到着したばかりのギャスパーは流石の順応力で慣れた部分も多いが、その慣れにかまけて油断して、何か失敗を犯してしまってからでは遅いのだ。襟を正すつもりで、ギャスパーは静かに深呼吸をした。 「…失礼なことを申しました。どうかお許しください」  答えのない彼に向かって、ギャスパーはその場から一歩も動かず頭を下げた。 「しっ、失礼だなんて、とんでもない」 「しかし俺は、あなたを困らせてしまった」 「そ、それは…あの…僕のことなんか見ても、きっといい気分はしないと思って…」     
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