初恋

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 この王はどんな名前を持っているのだろう。好きな人の名前を知るというのは胸が踊る。こんな当たり前のことも知らなかったギャスパーは、なんだか突然、ただ生きることが楽しいとすら思ってしまた。浮かれているのだ。  なかなか口を開かない主人にうずうずとしていたカノンとアレグロだったが、ギャスパーの気持ちを汲み取り黙って待つ。そしてようやく、期待に満ちた目をしたギャスパーを見上げて、王は口を開いた。 「あ、アリア…。アリア・ドラコルシアと言います、ギャスパーさん」  アリア。  やはり、馴染みない名前である。無論それを美しい名だと思ったギャスパーだが、もはや彼はアリアのことを冷静に客観視できているかどうか怪しい。けれど大切なその名を忘れないように、何度もなんども、ギャスパーはそれを反復した。恋をする相手はアリアという。その瞬間、それはギャスパーにとって一番大事な名前になった。誰よりも何よりも、その名だけは忘れたくはない。 「ありがとうございます、アリア陛下」  心からの感謝と喜びを込めて、ギャスパーは言った。好いた相手の未知を暴くということが、ここまで甘美だなんて、彼はまたひとつ知識を得た。 「陛下、頼みがございます」  何事か、とアリアが身を硬くしていると、彼はとろけるような笑みでこう言った。 「どうか、ギャスパーとお呼びください。俺に敬語をお使いにならないでください。あなたと、もっとお近づきになりたいのです」     
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