初恋

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 この男なかなかやるな、と紅一点のアレグロが内心でそう思ったのをもちろん誰も知らず、カノンとアレグロは交流を持ち始めた婚約者たちの邪魔にならぬようにと存在感を消していた。 「僕なんかと仲良くなったっていいことなんか、」 「いいことはたくさんありますよ。たとえばそうですね、俺は幸福感で満たされます」 「なっ…何を言って…!」  生まれた時から人を口説いていきました、と言わんばかりによく口が回るギャスパーだったが、恋愛テクニックでも何でもなく天然で本心をしゃべっているだけだから恐ろしいものである。とにかく彼は、今までの障害のせいか自己評価の低いアリアに構わずにはいられない。 「しかし、あんまり幸福なのも考えものだな。浮かれすぎて、寝るのが惜しく感じてしまうかも。ああでも、翌日もっと良いことがあれば話は別ですね。たとえば、あなたの笑顔を見られたりしたら最高です」  照れたように首を傾けて、座ったままのアリアにそう言ったギャスパーの顔は緩みきっていた。すっきりとしたつり目のアリアが、零れ落ちそうなほど大きな瞳を細めたらどれだけ可愛いのだろう。そんな想像をしたせいでギャスパーの顔が締まらない。     
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