初恋

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 小さな口をぽかんと開けて固まったのはアリアだ。しばらくして、お砂糖の蜂蜜煮のような言葉の意味を解し終えたのか、アリアの頬は真っ赤に染まる。鱗で覆われた部分も薄っすらとピンク色になって、ハッとギャスパーは今言ったことがどれだけ大胆だったかを自覚した。  まずい、とギャスパーは焦る。こんなに自分の言葉をコントロールできなかったことはない。しかし顔には一切出ていないところが流石食えない男である。  恋は恐ろしいとギャスパーは知った。  アリアに好感を持って欲しいのだからもっと気をつけて、ちゃんと好かれるような言葉を選ばなくてはならない。アリアという竜をもっと知って、ただの婚約者じゃなくて恋人になりたい。ギャスパーの脳内はありえないはずだったタスクで埋まっていく。アリアがいなければ、もしかしたら一生知らない感覚だったかもしれない。今までの人生を否定するつもりはないが、ギャスパーにとって今日この日は明らかな始まりの日であった。どうしても、この人が好きだと脳が骨髄が心の核が訴えてくる。 「っ無理して、」  甘い視線を浴び続け、とうとういたたまれなくなったアリアは、堰を切ったように話し出した。ギャスパーがアリアの何一つを知らないはずなのにこんな風に好意を丸出しにしてきたことに、アリアは申し訳なさすら感じていた。 「無理して、僕のことを愛さなくていい」 「無理などしていません」 「いつか絶対後悔する。僕のことを何も知らないのに」     
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