初恋

21/28
前へ
/228ページ
次へ
 思わず耐えきれずアリアがそう叫んだ瞬間、部屋にしんと沈黙が落ちる。机ににじり寄っていつの間にか近くにいたギャスパーが放心して固まっているのを見て、アリアは自分が何を口走ってしまったのかを自覚した。  あまりに失礼だったと、アリアはサアッと青ざめる。 「ご、ごめ、」  誤解されてはかなわない、と、ガタッと鈍い音を立てて、ソファのように大きい椅子から立ち上がってアリアは口を開く。しかし、震える声で謝ろうとしたアリアの耳に飛び込んできたのは、感極まったような歓声だった。 「俺の希望通り、名前を呼び捨てにしてくださった。ありがとうございます、陛下…!」  ギャスパーの瞳が潤んでいるように見えたのは、きっとアリアの見間違いではない。仁王立ちしたアリアがサッと背後のカノンを見たら、流石の彼もぎょっとしていたからだ。 「おや、背が高くていらっしゃいますね。お顔が小さいから、もっと小柄な方かと思っていましたが…。余計お美しいですね」  ニコニコしながらギャスパーは言った。アリアの身長はギャスパーよりも頭二つ分低い。女性にしては長身なアレグロよりも少し高い、といったところである。とはいえ千五百歳はまだまだ竜人の成長期だ。  ギャスパーはあっけにとられる竜人たちを意にも介さずサッと大股で机を横切り跪き、立ち上がったアリアをすぐ下から見上げて、いけしゃあしゃあと言ってのけた。     
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加