199人が本棚に入れています
本棚に追加
手の甲にキスを落とすのは、ギャスパーの祖国では王族に対する敬意の証だ。
しかし、指の先、爪の上にキスを落とすのは、必ずしもそれだけの意味じゃない。
反射で手を引っ込めようとしたアリアにそれを許さず、ギャスパーはその手を掲げて握ったまま、真剣な眼差しでアリアに言った。
「俺はあなたに忠誠を誓う者。そして、あなたを愛する者です。俺自身こんな風になってしまって戸惑っていますが、この感情に嘘はない。…俺の全ては陛下のご随意に。お嫌なことは何一つしないと誓いましょう」
ドッと鳴ったのが自分の鼓動だと、アリアは最初気づかなかった。
人間によくあるという枯れ葉色の双眸はアリアにとっては珍しく、そしてその力強さにおののいた。もしかしたらギャスパーのことは信じてもいいのではないかとアリアが思えるほどに、彼は真剣だったのだ。
けれど卑屈で天邪鬼な白竜はプイッと横を向く。人形のように黙ったままのカノンとアレグロの存在まで忘れて、二人は彼らだけの世界に舞い込んでしまったのだが、ハッと我に返る余裕もない。
「手にキスをするのは、あなたのところの文化でしょう。僕の国にそんなものはない」
最初のコメントを投稿しよう!