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「なら、どうしたら信じていただけるのでしょう。不思議だな、陛下に呼ばれてここに来たのに、俺が必死であなたを口説いている」
くすくすと笑ってギャスパーは言ったが、アリアは身を硬くした。ギャスパーのことを少なからず好ましく思っているということにアリアはどうしようもなく気がついてしまったのだ。何を隠そう、全く恋愛に慣れていないのは千年生きたアリアも同様なのだ。
「愛を誓うキスは、僕の国じゃ口にしかしない」
アリアは下を見ながらボソボソと呟く。病人のように白くコンプレックスだった手に男の唇の跡が付いているような気がして、少しだけ心が温かくなったのは誰にも秘密だ。
「なるほど」
ギャスパーのなじみよい低い声に返事を寄こそうとしたところで、アリアは一瞬で声が出ないことに気がつく。
反射でカノンがギャスパーの体をアリアからはがそうとしたのと、アレグロがカノンの体を取り押さえたのと、婚約者らの唇が重なったのは全く同じタイミングであった。
時間の止まる一瞬だった。
細い両肩に大きな手が覆いかぶさる。大事に触れたものといえば剣ぐらいだったギャスパーの手は何より心を込めてアリアの体に触れて、無骨な体で唯一柔らかい部分がアリアの唇に重なり、短い時を経て離される。
「…これで、信じてもらえますか」
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