初恋

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 互いにとって、人生初のキスだった。照れて上気した頬をして、至近距離でギャスパーはアリアに囁いた。  片手はアリアの肩に添えたまま指先で頬を掻くギャスパーの変わりように、二人の様子をじっと見ていたアレグロとカノンは心底驚いていたのだが、口を挟める雰囲気ではない。アリアの反応如何に全てを任せるしかないのだ。 「い、いつか絶対後悔する」  ふるふると体を震わせ、先ほどと同じことを言ったアリアにギャスパーは微笑んで首を振る。 「しませんよ。あなたこそ、俺をここに呼んだ事に後悔しているのではと疑ってしまいます」  特に希望も欲求もなく、孤児院で冷たい人生のスタートを切ったその瞬間から変わらぬ無気力さがギャスパーの体にはあった。しかしそんなものは、今や一片たりとも彼の元にない。まるで今もう一度生まれたような気すらするのだから、世の中に恋の歌や物語が氾濫する理由にギャスパーはようやく思い当たる。全ての文明を持つ種族はこんな強烈で鮮明な体験をして生きているのだとすると、きっと今までギャスパーは死んでいた。 「む、無理して」 「愛さなくていい、でしょう?そんなセリフ、今日を境に言って欲しくない」     
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