初恋

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 紡ぐ言葉をことごとく否定されるアリアだが、どうしてかカノンやアレグロに励まされる時よりも素直に受け取れる気がした。その感情に名前をつけてしまうには、アリアはまだ臆病だったけれど、ギャスパーはそれを些細なことと扱って自分の思うとおりに行動するのだろう。その強引さが、どうにもできないという諦めとともにアリアを楽にさせていく。ギャスパーの手から伝わる体温が心地よかった。他人の肌にもっと触れたいと思ったことは、もしかしたら生まれてこのかた初めてかもしれない。  広いはずの部屋は途端に狭まり、二人にとってお互いの立っている場所だけが世界の全てとなった。 「ギャスパーは、僕のこと、」 「はい、アリア陛下」  シンとした時間がしばらくあって、アリアはようやく、一番聞きたかったことを聞こうとする。  いつもアリアを目にした者が持つ感情を、ギャスパーは持っていないような気がしたのだ。  勇気を出して、アリアは息を吸った。 「僕のこと、怖くない…?」  カノンやアレグロも、アリアをその心の底では怖がっていたと、アリアの敏感な心が気付いていないはずがなかった。その態度が悲しくて寂しくて仕方がなかったけれど、アリアはそれをどうすることもできない。ひっそりと一人で泣きながら鱗を剥がしても即座に再生する異様な白色を、アリアは憎んですらいた。  緊張と恐怖に震えるアリアの心臓は破裂しそうだった。こんなことを聞くんじゃなかったと彼は後悔したが、すでに遅い。  ギャスパーの目がゆっくりと見開かれる。それが何を意味するか、アリアはわからずに余計怖くなった。 「まさか。怖いわけないでしょう」  だから、ギャスパーが真摯な眼差しでこう言ってくれた時、アリアは信じられないような心地だった。     
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