初恋

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 もうごまかせない、とアリアは理解した。  この男はなぜだかアリアに恋をしていて、アリアはこの男からきっともう目を離せないのだ。まさか、という一言が、今までアリアが抱えていた全ての影を浮き彫りにした。  生まれた時からの記憶があった。母は自分の姿を見て、あまりのショックを受けて死んだ。白竜の死を望む声、アリアの命如何を争って、混乱に落ちるドラコルシア。冷たい地下と鉄格子。幽閉されたその部屋は破ろうと思えば破れたが、余計恐れられると悟って力を抑え込んだ千年間。  玉座に座らされ、長年アリアを閉じ込めた竜人族の皆は一様に、その瞳に恐れをたたえていた。他の温かい感情も確かにあったかもしれないけれど、アリアを恐怖しない竜人は一人もなかった。恐怖と同居した思慕なんて、アリアにとって寂しさしか生まなかった。 「俺は、あなたのことを恐れませんよ。こんなに美しいのに」  にっこりと笑って追い打ちをかけるギャスパーのセリフにぼろっと大粒の涙を流したアリアに、カノンとアレグロはまたも驚いて顔を見合わせる。彼らは自らの主君の感情がこんなにも発露しているところを、一度だって見たことがなかった。  ボロボロあふれる涙の理由に、アリアはすでに気がついていた。     
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