揺らめく影は何を狙う

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 メッゾは彼の息子カノンをアリアのそばに置いた。地下に幽閉されたアリアの世話と称して保護をまかせ、自身はアリア処刑派のノクターンと徹底抗戦することを選び、結果アリアを王座に押し上げることに成功する。彼の敬愛する、歴史あるドラコルシア王家の血は守られたのだ。  しかし前途多難の状況は終わることがない。この、めっきりおとなしくなったように見えるノクターンがどんな動きをするのか、何を望んでいるのか、メッゾにもその息子カノンにも図りかねることが多い。 「賢帝チルカ女王陛下の御子だ。アリア陛下には長く王座に座っていただかねば」  メッゾは煙を吐きながらそう言い、もう少し若かった頃の宿敵だった男を見上げる。若い体と重い金糸を誇るように月光浴しているノクターンは、カノンに言った。 「ドラコルシアの太陽チルカさま、か。懐かしいね。私の息子を貰ってくださった黒竜だね」  この世で最も嫌いな竜人ノクターンの息子が、この世で最も慕ったかつての主人、先王チルカの婿だったという事実は、何年たってもメッゾの心をざわつかせる。ドラコルシアを発展させ国交を開き水路を整えたアリアの母、賢帝チルカ女王はメッゾにとって、そしてひと時代前の竜人にとっての一番敬愛すべき王だった。 「アリア陛下のお祖父様である貴殿はもちろん、二度と陛下を殺せなどと申さぬな?」  ノクターンに問うメッゾの眼光は鋭い。赤の鱗の色も褪せてしまったが、その胸に燃える王家への、主として賢帝チルカへの炎はくすまない。     
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