揺らめく影は何を狙う

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「…自分の息子を殺して、チルカ陛下を未亡人に追い込んだ男のセリフとは思えないなあ。その上、貴殿は白竜を恐れない奇異な竜人だろう」 「はて、何のことだろう。我が息子は不運なことに、心臓の病で死んだのだよ」 「王座を狙うのはいい加減やめないのかね」 「王座?ふふふ、変なことを言うね。夢でも見たのかい」  途切れず単刀直入に聞いてもこのノクターンは全く焦りを見せなかった。メッゾは苛立ちから、勢い良く煙を吸い、噎せ返ってしまう。  もとより、ノクターンの一族は王城に長く仕える名家だ。女王の婿を息子に持ち、現国王を孫に持ち、自らは自らが作った政治機関元老院のトップの座にいるとなれば、誰もノクターンに強く対抗することができない。その上不気味なその体は老いを知らず、原始竜に近い突然変異種アリアの鱗を取り込んだとなれば一部竜らがノクターンに平伏するのも頷けるのだ。 「王座になど座らなくても、私は『現状』で充分さ」  国王が持つはずの、対外貿易権と年間予算決定権を元老院一手に集めるよう仕向けたくせに何を言う、と言いかけて、メッゾは言葉を飲み込んだ。このノクターンに論戦を仕掛けても平行線しか辿らないと、メッゾは経験から知っていた。     
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