揺らめく影は何を狙う

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 ニコニコと笑いながらノクターンは回廊に入り、裸足のまま大理石の床を踏んだ。 「報告をしていいよ。誰もいないから」  さっと膝をくずして跪いた男の顎を、ノクターンは撫でる。若い彼の肌よりきめ細かいその指先に、男は背中を震わせた。 「は、ノクターン閣下。カノン宰相閣下も陛下も、そしてギャスパー・キャロルの様子も、この書面に記載したとおりでございます」  ボブヘアの男から差し出された書を見て、ノクターンは、ふむ、と声を漏らす。 「ふうん。まだわからないんだ。そのギャスパーがどんな思想を持っていて、どれほど強いのか。まあ、人間一人なんて結局、想像範囲内の力しかないだろうけど。でも、ねえ」  言葉を切ったノクターンを前にして、男は体を固まらせた。真っ白のその制服はこの元老院で異質なものだったが、彼は着替える余裕もなくこの報告書を書いていたのだ。 「いつまでかかるのかな、この役立たずが」  男に、防御する、という考えはなかった。彼はその青い髪を鷲掴みにされ、身動きひとつ取れない。ぶちっと音を立てて、何本かの髪が抜けた。大理石に、細い青い線が落ちていく。 「も、しわけ、ありませ、」     
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