揺らめく影は何を狙う

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「忘れるな。父母を失ったお前を救ったのも、生まれたばかりだったお前の弟を救ったのも、この私だよ。お前を買ったのは私なのだから。…面倒なことになりそうだったら、あのギャスパーとかいう男を殺していいと言ったろう。アリア陛下にはこの先も、おとなしく粛々と、王座に座っていただかなくてはならいのだから。ドラコルシアに新たな風など必要ないさ」  その言葉に男が一瞬迷いを見せたのをノクターンは見逃さなかった。揺れる青い瞳に、ノクターンは囁く。 「いずれ、あの腰抜け少年王からこの元老院は全てをいただくよ。恐れるな、青竜よ。孫に代わり私が真の王になったら、お前の一族に土地をあてがおう。また領主にしてあげる。弟たちにはもちろん何も言わなくていいさ、城勤めのお前が報奨金を得たと、その名誉だけが残る。殺しの罪など、いくらでも消せるのだからね」  こくこくと頷く男はもう、凄まじい頭皮の痛みに息が詰まりそうだった。襟が喉に食い込み、彼を苦しめる。 「あ、なたさまの、お望み通り」 「うん。そうだね。じゃあもう帰っていいよ。怪しまれる前にね」  ノクターンは笑う。青竜は瞬時に姿を変え夜空に飛び立ち、王城の方へ消えていった。 「またね」  薬を吸い込み眠りこけ、同時に今夜の記憶も一部失うであろうメッゾを見下ろしてから、ノクターンは密やかに言った。
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