君の心をどうか見せて

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 自らの体のコントールが取れず、感情が乱れた時は特に酷い醜態を晒す。感情が揺れ動くとたまに、体を覆う白の鱗が増える。背中が盛り上がり、異様に大きな羽が顔を覗かせる。突発的に白竜になってしまうことがあるのに、そのタイミングをアリアは選べない。体を制御しきれないのだ。  白竜の鱗が他者に恐れられてしまうことは知らず知らずのうちにアリアの心を疲弊させていき、彼の体は次第に白竜の姿を手放すことを望むようになる。そして本当に、恐怖の対象であった原始竜を彷彿させる見た目も能力も、彼は今や何一つ、自らの統制下に置けないのだ。  その上、白竜が笑おうと泣こうと竜人族は体を震わせる。どんなに長くともに過ごした竜人だろうと、心の内ではアリアを恐怖している。カノンもアレグロも、城に勤める全ての竜もだ。だから結局、無表情でなるべく声を発さないのが一番だと知り、アリアはそうするよう徹した。  次第にアリアは自らが何を望むのか、何が好きだったかなども全て忘れてしまうようになる。食べ物も飲み物も、歌や花だって、アリアにとってただそこに在るだけのものとなってしまったのだ。 (でも不思議だ…ギャスパーのことは好きだと、なんでわかるんだろう) 「失礼いたします、陛下。お約束いただいたお時間ですが」  高く厚い扉の向こうからギャスパーの声がして、濡れた髪を拭いていたアリアはハッとそちらに駆け寄る。     
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