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アリアがおずおずと提案すると、ギャスパーは機嫌よく応えてくれた。狼座はドラコルシアの冬の名物だが、きっとギャスパーはそれも勉強してきてくれたのだろう。
君主のための庭に立ち入るのは恐縮だ、とギャスパーが言い出さないことが、アリアにとってとても心地よい。遠慮される度に感じていた冷たさの名を寂しさと呼ぶと、アリアはギャスパーと知り合って初めて知った。
「あの、ごめんね、いつも僕のワガママばっかり」
「とんでもない。先日陛下にドラコルシアの文化を教わったとき、占星術のお話もありましたよね。だからあなたと星を眺められないかと、密かに望んでいたのです」
ここに来て二週間と少しのギャスパーは、ずっと城に篭っている。国民はまだ彼を、新聞でしか知らない。ギャスパーは日中はアリアについて王城で仕事を見守りその肌で政治システムを学んでいるが、夜はこうしてアリアと語らい彼の口から異国のあれこれを聞いている。
「ここの下なんだけど。飛び降りれる?ギャスパー」
高さ五メートルはありそうな大窓の重さを物ともせず、細腕でそれを一気に開けたアリアはギャスパーの方を振り返り見た。オオカミの毛皮を寝巻きの上からかぶったギャスパーはブワッと流れ込む冷気に鳥肌が立つ。
「この下は庭なのですね、全く気が付きませんでした。このくらいなら余裕ですよ」
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