君の心をどうか見せて

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 バルコニーから三メートルほど下に、植物の生える広大な正方形のスペースがあり、そこに雪はない。上部をガラスのドームで覆われているからだ。 「うん。母上が…チルカ先王陛下が星を眺めるためにお造りになった場所なんだって」  もしかしたら、母は父とここで未来を語ったのかもしれない。アリアが原始竜の先祖返りなどでなく普通の竜人であったら、三人で星を眺める機会もあったのかもしれない。  しかしそれは叶わなかった。忌々しい白の鱗は腹にも背中にも四肢にもある。アリアは唇を噛み締めるが、そっと体を抱えられる感覚にその思考はストップした。 「わっ、ちょっと、ギャスパー、」 「一緒に飛び降りましょう!せーのっ!」  ふわっと恋人の腕に抱えられたアリアは、目を閉じ身を硬くしているうちに着地したと気づいて、そろそろと瞼を開けた。  ギャスパーの顔が、彼の腕に収まるアリアを覗いている。彼越しにガラスの天井、そしてまんまるの月が見えて、アリアはその光景に胸が痛くなった。こんな幸福を味わっていいものかと、彼は罪悪感にすらかられたのだ。 「また何か、余計なことを考えておいでだ。仕方がないお方だな」  クスクスとギャスパーは笑った。 「ごめん、呆れたかな…その、本当なら僕が竜になって、ギャスパーを背負うところだったのに」     
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