君の心をどうか見せて

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 ギャスパーがほんの少し傷ついた顔をしたのを、アリアは見逃さなかった。いつも笑みを浮かべ、誠実ながらもどこか飄々とした態度のギャスパーがそんな顔を見せたことは一度だってないのに、アリアのせいで彼の心を乱してしまったことに、アリアは拳を握り締める。 「でも、当たり前ですよね。俺だって不思議なのですよ」 「ギャスパー?」 「俺の話をしましょうか、少しだけね。剣の才能のおかげで俺は、小さく貧しい孤児院から出ることができたけど、能動的に動いたことは実は一度もなかった。でも俺はこういうやつだから、まあ楽しんで生きてこられたのですよ。…実際は、ただ楽しんでいたつもりだったのですけどね」  カノンから少し、アリアはギャスパーの情報は聞いていた。竜の国には珍しい、しかし人間の国ではごく普通の茶の髪を持つ彼は、群衆に埋もれて目立たぬ子供時代を過ごし、そして、ただ強いという理由だけでここまで来させられた。けれど彼は何の希望もなかったからこそ、、自分の置かれた環境で生きることができたのだという。 「でも、あなたを一目見て、今までの俺が死んでいたことを知った。本当の高揚も本当の緊張も、本当の恋だって、全部あなたが教えてくれたんだ。不思議でした。なんでこんなに好きなんだろうと、何度も考えた。でも結論は一つなんですよ、どうしたって、あなたのそばにいたい。だから、ね。何を言いたいのかっていうと」     
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