君の心をどうか見せて

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 なんとか身をよじり、アリアは一瞬キスから逃れることに成功した。しかしギャスパーは、アリアの言葉を聞きもせずに、また彼の唇を押し付ける。容赦のないそれに、アリアの目尻からは涙が溢れでた。  ギャスパーに見られたくない。こんなに醜い自分を知られたくない。ギャスパーはきっと、どんなになってもアリアのことを受け入れるのかもしれない。しかしそれでも、一度も肯定されなかった真の姿を、アリアはどうしてもギャスパーにだけは見られたくなかった。  嫌われるのが怖かった。なのに恋人の舌は、異形の証であるアリアの牙をゆっくりとなぞる。血の味がした。膨張していく自分の牙が彼を傷つけたと知ったアリアはざあっと血の気が引いた。それでも、ギャスパーは口づけをやめなかった。  ボコッと隆起したのはアリアの腕と脚だ。きっと布の下の四肢は、肌色のところがないのだろう。恐れられ忌避され万能薬となる不思議な白の鱗に、全て飲まれてしまったのだ。  アリアの小さな額から、二本のツノが伸びた。鼻筋から口にかけて前にでっぱる。骨ごと変わっていくことを抑えられず、月に浮きぼられたアリアの影はもはや人間ではない。  しかしそれでも、ギャスパーはキスをやめなかった。     
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