初恋

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初恋

「陛下、緊張しておいでですな」  長い髭を生やし杖をつく老爺の言葉に、陛下と呼ばれた少年は、大きな椅子に座ったまま身動き一つしない。 「わしのせがれが無事、陛下の御要求された人間の男を連れ帰ったようですぞ」  真っ赤の鱗に手の甲を覆われた老爺は、装飾の施された双眼鏡から外を覗いていた。その視線の先にあるのは、竜たちの発着地の一つである雪の中庭に降り立った、黒竜と青竜たちである。 「…元老院院長補佐官のあなたが僕のところまでいらしてくれるとは、随分心配してくださっているようですね、メッゾ老」  少年は窓の外を見ずに言った。  この赤竜メッゾは少年及び王城の味方だ。白竜である王が生まれたその瞬間、彼を護った竜であり、少年を生かし玉座にまで押し上げた竜だ。彼は今でも、元老院を支配する白竜排斥派のリーダーだったある竜人を監視するため、自ら元老院に在籍している。  しかし、少年はメッゾが苦手だった。メッゾを見ると彼は必ず、争いの最中地下に幽閉されていた時代を思い出し、憂鬱な気分に陥る。     
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